【アイデア部門】価値転換賞①矢野 貴美子

美術作品のさわり方を解説する、アートトランスレーターという仕事。

 私が副館長を務める、六甲山の上美術館「さわるみゅーじあむ」では、すべての作品を「さわって」鑑賞していただいています。その際に、作品に関して説明できる担当者がいれば、来館者はより楽しく、深く、作品を体感することができます。そこで、当館では、芸術作品の「翻訳」を手伝うアートトランスレーターを、健常者と視覚障害者の区別なく育成したいと考えています。むしろ、さわるということに関しては視覚障害者の方が長けているかもしれません。健常者は、「見えているから、さわらなくてもわかる」と勘違いしている人が多いように思いますが、作品の表面の質感、研摩の跡、重量感など、さわらなければわからないことはたくさんあるのです。
 アートトランスレーターになるための検定試験を実施し、初級、中級、上級と3段階のレベルを設定。検定試験を受ける前には、美術館で研修も行います。職員となった方は、当館の仕事とアートトランスレーターの仕事を兼務していただきます。アートトランスレーターの主な仕事は、各地の美術館や博物館、公共施設などで行うアートシェアリングや展示会での活動です。スキルに応じて給与もアップしていくようにと考えています。

審査員コメント

興味深いアイデアです。受け身になりがちな視覚障害者が、芸術に関する情報の発信側に立つことで、視覚障害者の文化の向上が図られるとともに、芸術の解釈にも新たな深みを与えられるのではないでしょうか。目を閉じて、手の感触だけで美術品を鑑賞するのはスリルもあり、とても新鮮な感覚を覚えるもの。具体化を期待しています。

プロフィール

 

矢野 貴美子
六甲山の上美術館副館長

高校卒業後、ドイツ宝石研究所で宝石学ディプロマを取得。1992年ドイツのイーダ・オーバシュタイン市博物館開館60年祭を主催。2013年兵庫県神戸市の六甲山にあった元・保養所を改装し、六甲山の上美術館「さわるみゅーじあむ」としてオープン。副館長を務める。

おすすめの記事