「ロービジョンサイン」と「私の見え方」で、自分を伝える。

 網膜色素変性の患者さんは、病気を告知された段階ではまだ見えていることが多く、その段階で白杖を持つことに「高いハードルがある」と言います。白杖を持つほどではないけれど、視野が狭くなってきている患者さんや、夕方以降に暗くなってくると周囲が見えにくくなる患者さんもいます。そんな患者さんが身につける「ロービジョンサイン」や、すれ違いざまに人とぶつかってトラブルになりそうなときにさっと出せるように携帯できる「私の見え方」を作成することを提案します。「ロービジョンサイン」は、「私の目は、よく見えていません」ということを相手に気付いてもらうことが目的で、マタニティサインのようにカバンなどにつけることができる形状がいいと考えます。白杖を持っていても、混んでいる電車では白杖がまわりの乗客の目に入らないことがあり、そんな場面でも役立ちそうです。
「私の見え方」は、ぶつかって嫌な顔をされたり、怒鳴られたりしたときに、恐縮して何も言えないという患者さんの声を受けて考えたアイデアです。定期やカードほどの大きさで、「私は目が不自由なのです」と伝えるために用意しておくものです。
 自身がロービジョンであることを受け入れる第一段階として、さらには、社会から隔絶されることのない一助となるものだと考えています。

審査員コメント

周囲に理解を求めることにつながるアイデアだと思います。                       

 

「通勤リレーシステム」と、駅での転落事故防止策。

 視覚障害者の就労でもっとも高いハードルとなるのは通勤です。仕事が続けられていたとしても、通勤に不安があるために断念するケースも多いのです。そこで提案したいのは、通勤におけるリレーシステム。視覚障害者の通勤路のうち、自宅から乗車駅の改札口までを地方自治体が同行し、そこから降車駅の改札口までを鉄道会社の駅員が誘導。駅を出てから会社までは同僚の手引きを受けるという「通勤リレーシステム」を、会社や組織に所属する視覚障害者全員が利用できるようになれば、就労のハードルがかなり下がります。もちろん、自治体と鉄道会社と本人が勤める会社の三者の協力がなければ構築できないシステムではありますが。
 もう一件は、2016年8月に東京メトロ銀座線の青山一丁目駅で起こった、盲導犬を連れた視覚障害者の転落事故を受けての提案です。線路への転落は、ホームの端から端へ凹凸のある白線を平行に敷設すれば防げます。そうすれば、ロービジョンの人は今、自分が斜めに歩いているのか、まっすぐ歩いているのかを自覚することができます。目視や白杖によって方向だけはわかるので、少なくとも線路側に向かって歩くことはなくなります。階段からホームにつながるかたちで白線が敷かれてあれば、より安全に誘導されます。ぜひ、導入してほしいアイデアです。

審査員コメント

視覚障害者の就労にとって、通勤は大きな壁。「通勤リレーシステム」によるサポートが実現すれば、会社と当事者、双方の負担を軽減できそうです。多くのニーズにもマッチしています。一般の人たちとふれる機会の多い場所に出ていくための支援であり、また、社会への認知・啓蒙活動にもつながるアイデアだと感じました。

プロフィール

 

公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
中途失明の原因となることが多い網膜色素変性およびその類似疾患の、治療法研究の助成活動と啓発活動を行っています。本協会は、それらの活動を通じて、網膜色素変性等の患者の自立を促進することを目的としています。
http://jrps.org

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