1.機器展示
- 出展業者・団体 全36ブース
2.高橋先生(理研・網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー)講演会
テーマ:「網膜再生医療の最新医療」
- (再生医療について)
- 今年はiPS細胞10周年の年
- 網膜色素上皮細胞を作るのに10カ月かかるため人数制限があり1年で1~2人しか臨床研究での移植ができない。
- 研究室には人類学者が来ていて研究者をチンパンジーのように観察し論文にまとめて素晴らしい賞をもらっている。その研究者から、高橋の考え方は方法論がたくさんあって、ぐちゃぐちゃだと言われた。
- 自分では研究を始めた時に20年後には網膜再生ができることがわかっていた。一本道でルールに縛られるよりも、何本も道を作っておくことでいろんな障害をすり抜けて1例目の臨床研究ができたと思う。一歩一歩進むのではなくて最終地点ですべてがそろうようにやってきたのは料理と同じ。煮物からはじめて最後にサラダを作ってすべてがそろう。そして、研究だけでなくメディア対策も行ってきた。さらに、成功することはわかっていたのでベンチャー企業も準備した。
- 日本には再生医療用の法律がある。日本では科学は一流、政治は三流と言われることがあるが日本では臨床研究ができる。法律の差が大きく、世界では治験しかできない。臨床研究では数人分が準備できたら細胞移植が可能。世界が日本でやりたいと言っている。薬事法も変わって世界が日本にやってくる時代になる。しかし、いろんなものが入ってくるといいものも悪いものもある。すぐに治るというのは大体がウソなのでみなさんが賢くなって正しい情報を見極めてほしい。
- 日本の再生医療は産学官でアカデミィアが主導している。世界で初めてのことが始まるといろんなことが起きる。でも、失敗したらすぐにダメだと言わないで欲しい。再生医療バンザイと言われることもあるが決していいことばかりで
はない。 - 網膜は脳の一部。視細胞がなくなると光を受け取らなくなる。視細胞は神経なので組み込むのは難しい。一方、網膜色素上皮細胞は視細胞をメンテナンスする細胞なのでなくなると視細胞も弱ってしまう。
- (加齢黄斑変性に臨床研究について)
- 加齢黄斑変性は新生血管が生えてきて水ぶくれができる。日本で約70万人いる病気。60歳代で1%、その後加齢とともに増える。15年前に注射の薬が開発され、3分の1くらいの人が治る病気になった。でも3分の1の人には薬が効かない。そして残りの3分の1の人は注射を打ち続ける必要があって、その治療費は1回約20万円かかる。
- この病気の根本原因は網膜色素上皮細胞なので、老化して痛んだ網膜色素上皮細胞をiPS細胞から作った色素上皮細胞に置き換えて治療するのが今回の臨床研究の目的。
- 1例目の患者さんは自家移植(自分の細胞)で拒絶反応なく成功した。
- 臨床研究を行うにあたり、1例目の対象者は、視力はそれ以上悪くならない下がりきった人を選んだので、そういう人に移植しても視力はあがらないと考えていた。臨床研究は安全性を見るものだが、それでも患者さんに喜んでもらえるものにしたかったので病気は加齢黄斑変性を対象にした。
- 手術で悪いもの(新生血管)を取り除けば見え方が明るくなることを我々はわかっていたが、それでも患者さんは喜んでくれた。これまで眼球への注射による治療を受けてきて、良い時の視力は0.3。しかし、注射をやめると視力が落ちてしまうので10回以上も注射による治療を行ってきた。それが、今回の移植後は視力が落ちずに安定したので注射をやめられて患者さんはとても喜んでいる。術後の結果は移植したときの視力や眼の状態によって移植後の視力は変わる。
- 一人、二人に移植するだけでなくより多くの人を対象にできる他家移植(他人の細胞)の準備をスタートしている。京大の山中先生のところでたくさんの人にマッチする細胞ができているが、iPS細胞は京大が作り、理研では網膜色素上皮細胞を作る。そして、神戸医療センター・中央市民病院と阪大で移植を行う体制になった。
- 細胞もシート状のもの、バラバラの細胞など移植する細胞種の良し悪しは人によって違う。そのため、自家・他家・シート・バラなどいろいろな条件でトータル20例くらい臨床研究を行う予定。
- (網膜色素変性の研究について)
- 視細胞は脳の一部。中枢神経の再生は100年できないと言われていた。視細胞が減るのをゆっくりする治療法も開発されているが、人工網膜、細胞移植が先行している。
- 実験用のお皿の中で網膜を作製している。理研の笹井先生や永樂先生の仕事で、お皿の中で細胞を培養する環境を整えると最初に脳ができて、網膜が眼球の形で生えてくる。これが立体網膜。視細胞の場合、色がつかないので視細胞とそうでない細胞を見分けるのが大変だったが生えてきたものを切り取ればよくなった。
- これまでイギリスで行われたバラバラにした細胞の移植が成功したと言われていた。しかし、これは視細胞が残っているマウスに移植していたので移植細胞はなくなっていたのに移植した細胞にあったGFPという色素がマウスの細胞に取り込まれていたものだった。また、これまでには胎児網膜の移植も行われてきた。
- 我々の実験では視細胞のないマウスにシート状の細胞を移植し、6か月生着したことを確認できた。これまでは視細胞移植をやっていなかったが現在は徹底的に実験を行っている。
- 機能を確認するためには多電極検出システムを使って、電極の上に網膜を広げ、光を当てて電気反応を見る。すると、移植したところは反応が出て神経がつながっていることが確認できた。その後その反応が本当かどうか実験を2年続けている。
- 行動解析では、ショック・アボイダンス・システムを用いて、光が見えるか見えていないかを判断し、移植後のマウスの約40%が見えるようになっていることを確認できた。この解析には私にもわからないようなアルゴリズムが組み込まれている。
- 他にどういう状態の網膜を移植するか、タイムウィンドウも重要。炎症が起きているときは移植に適していないと考えていて、移植時期は限られてくる。人の場合はひとつの眼の中にいろいろな状態(移植に良い時期)が混ざっているので見極めることが重要。
- あと3年くらいで1例目の臨床研究が始まる予定だが、瘢痕になっている場合は人工網膜のほうが適しているなど、どの治療法がよいか人によって違う。遺伝子治療や細胞移植治療などいちばんよい治療法を選択する必要がある。
- これまで網膜色素変性は治らない病気と言われてきた。しかし、まだ時間はかかるが真っ暗になることはなくなる、心配しなくてもいい病気になってきている。
- 人工網膜では最初で0.03の視力が出ている。
- iPS細胞は特別なものではなく、ひとつの材料。他にも様々な研究が行われていて九大で行われている遺伝子治療では保護効果、人ではなく藻の遺伝子を使った研究などはすでにアメリカでは1例目の人への移植が行われている。
- (神戸アイセンターについて)
- 視機能を元通りにすることは一足飛びにはできないこと。白内障の手術も昔は見えなくなった人にしかしていなかった。ところが、今は安全で視力が1.0まであがる手術になっている。にも関わらず、それでも文句を言われることがある(笑)。
- 移植手術をしても視力は0.01になるかどうか、視野が広がるか、中心部の細胞を守ることができるかも、という程度。しかし、この視機能を活かしてデバイスを上手に使えば、できることが増える。視力は0.01や0.02であってもデバイスを使えば何でもできるという準備をしておいてほしい。
- 見えないと何もできないと思っていないか?柔らかな思考と健全なあきらめで視覚障害に対するイメージを一新したい。
- 神戸では来年、中央市民病院と先端医療センターの眼科が合体してアイセンター病院ができる。神戸アイセンターでは医療だけでなく、研究や視覚障害者のイメージ変革、就労支援を担う公益社団法人の3者が一体となる。
- これまでの福祉の歴史の中で全盲の人にはケアする仕組みが整っているが、その前のロービジョンの人、中途の人には早めの支援が必要である。
- 支援が必要だと思う人に、日本ライトハウスに行ってください、と言ってもなかなか行ってもらえない。そんな人も病院には来るので帰りにつかまえてロービジョンケアを紹介する。そして、これならやってみようと思ったら、日本ライトハウスさんのようなプロにつなげる。それが神戸アイセンターの持つ役割だと考えている。
- 建物は工事が始まったばかりで、中身はまだ何も決まっていない。企業、機関、団体単位でいいアイデアがあったら提案してほしい。有料制でもよいし、無料のボランティアでもOK。
- 一流のデザイナーがアイセンターのデザインを考えてくれている。クライミングの世界チャンピオンも協力してくれるし、誰もが楽しめるゆるスポーツもあり、代官山のツタヤのコンセプトも取り入れる予定。設計は面白く、デコボコしているけれど自然と人が集まるような仕掛けがある。平坦な通路から一歩フロアに入るとバリアフリーではないので歩くのに甘くはないが楽しいスペースになっている。
- 調査や研究などに協力してくれるモニターも募集している。
- 公益法人ではみなさんの意見を聞くために掲示板を立ち上げる予定。掲示板ではみなさんの意見を吸い上げる。
- 12月にはワーキングアワードの表彰式を行う予定で、視覚障害があっても、視覚障害があるからこそできる仕事の事例やアイデアを表彰する。
- (質問と回答)
- 医師からの告知で治る見込みのない病気とわかりショックを受けることがあるが?
眼科医にも意識を変えてほしいし、大分変わってきていると思う。ロービジョンケアが保険で点数がつくようになり眼科医の意識は変わった。
- 今日来ている人がisee!運動のチラシを眼科医に持って行ったら広まるのでは?
眼科医、眼科医会も変わってきている。眼科医が嫌にならない程度にやってほしい。きっとこれから広まっていくと思うし、企業も応援してくれている。
- 研究に対する障害は?
いっぱいある。と言っても、我々はとても恵まれている。障害となるものや人をブロックしてくれる人もいる。私は社会活動家になりましたと宣言していて、企業と連携して、サポートや寄附もいただいている。苦労と言えば、人を育てるのに時間がかかること。