PR-27ポスター発表 演題・筆頭者(第33回視覚障害リハビリテーション研究発表大会) 

「人生の意味を探る対話」の技法―医療とケアにおける「言葉」による回復に向けてー

○沖田 京子(株式会社 日立製作所 研究開発グループ)
共同発表者 公益社団法人 NEXT VISION 髙橋 政代、仲泊 聡、三宅 琢、和田 浩一、山田 千佳子、
株式会社 日立製作所 研究開発グループ 武田 志津、半澤 宏子

背景にある考え:治療が「目的化」しすぎている現代医療「医療はどうあるべきか?」
医療イコール単なる治療ではなく、人間の尊厳・社会との関係・生き方の選択として捉え、多様な人々との対話を通じ医療とケアの融合に向けた「言葉」を探る

1.対話の概要
形式 公開型オンラインイベント
頻度 年に一回、これまで5年継続
対話者:外部ゲスト+神戸アイセンター医療従事者、障害当事者、日立製作所研究者
参加者:ライブでの質問、及び事後アンケートに記入
事後アクション:参加者によるエッセイ集や「私たちのアクション集」と題したメッセージ集をウェブサイトに掲載
イベント参加者 のべ約1000名、アーカイブ配信ビュー数 約2000回、事後アンケート218件収集

2.医療の言語化について
 5回のゲストとの対話を、「医療」を軸に言語化した「言葉」の曼荼羅チャートに表現
「対話を通じて浮かび上がった「言葉」の曼荼羅チャート」としてまとめた

①ゲスト カール・ベッカーさん(医療・宗教倫理学者)「QoL(Quality of Life)からみたインクルーシブな医療と社会」
死生観:命との向き合い方、日本人の経験知、循環的
尊厳:人としての価値、命の尊重、二度となさ
自律:患者自身の選択と生き方、「健全な諦め」と「残酷な希望」
包括:インクルーシブな視点、多様性の受容
共生:障害や違いを超えて共に生きる
利他:他者を思いやる心、社会的な支え
対話:患者との関係性、医療者との意思疎通
社会処方:医療以外の社会的支援、情報だけでなく人生を楽しめること
医:治療だけでなく、癒し・支援・命との向き合い

②ゲスト パッチ・アダムスさん ( 医師、クラウン)「医療は社会変革の手段~インクルーシブな医療と社会に向けた思想と活動~」
ラベル:偏見や分類からの解放
ケア:治療だけでなく、心の支え
I love me:自己肯定感の重要性
尊厳:人としての価値を守る医療
共感:患者の気持ちに寄り添う
対話:患者との関係性を築く基本
自然:癒しの力、環境とのつながり
教育・芸術:医療者・市民の意識改革
医:治療だけでなく、人間性、尊厳、対話、ケアなどを含む広い概念

③ゲスト 桂 福点さん(落語家)「医療を軸にした “ 自分ごと ” コミュニティへ
笑い:落語・ユーモアは癒し、つながりを生む力、涙と背中合わせ
セルフケア:自分自身の健康と幸福を守る、音楽やヨガなど
自他愛:自分だけでなく、他者を同時に大切にする姿勢
環境:医療施設や地域社会のあり方が人に与える影響
対話:医療者と患者、子供たちの意思を聴く
希望:医療がもたらす未来への可能性、人のつながり
人を診る:病気ではなく「人」を診る医療への転換
医:治療だけでなく、人間性・関係性・文化を含む

④ゲスト ヨシタケシンスケさん ( 絵本作家)「一日限りのヨシタケシンスケラジオ~人生の意味がわかるかもしれない~」
言語化:曖昧な感情や経験を言葉にすることで理解が深まる
モヤモヤ:言葉にできない不安や違和感を共有することの価値(お互い様)
寄り添う:患者の気持ちに共感し、支える姿勢
びっくり:予想外の発見や気づきと可笑しさ、人生の意味
安心:医療における心的安全性の重要性
共創:医療者と患者がともに創る医療のあり方
期待:医療に対する希望と課題
哲学:人生や医療の意味を考える視点
医:治療だけでなく、心・社会・文化に関わる

⑤ゲスト 竹倉 史人さん(人類学者)「認知の仕方をアップデートすることで見える新しい世界の風景」
認知フレーム:物事の捉え方や思考の枠組みを変えることで生きやすさが増す
科学と宗教:人生を豊かにする道具、文化的な知恵の集積
幸福:自分でデザインできる、医療の進歩が必ずしも直結しない
視点:多様な見方を受け入れる柔軟性、「私」という現象
アップデート:異なる文化や歴史に学ぶ、混ざって慣れる
共感:患者やその家族の感情に寄り添う
意味:痛みや悲しみの経験が意味になっていく
自由:自分らしく生きる選択と解放(荒野に花を植える)
医:治療だけでなく、認知・感情・社会的つながりを含む

5つの曼荼羅チャートを結ぶ大きな曼荼羅チャート
「医(医療)」を中心に、尊厳の「尊」、平等・平和の「平」、共感・共生の「共」、慈しむ慈愛の「慈」、仁術の「仁」、希望・展望の「望」、叡智の「叡」、楽しいの「楽」、対話で浮かび上がった「言葉」を漢字一文字に表現した

3.対話の技法のポイント6つ
①問題意識の共有:事前に問題意識や問いを参加者と共有しておくことで深い対話を引き出す
②言語化の促進:「人生の意味」は他者と言語化することで、気づきを生む、専門的知見だけでなくパーソナルな体験や気づきを語り合う
③双方向性の重視:ゲストと参加者との対話のやりとりを増やし、対等な目線で多様な視点を引き出す
④笑いやユーモアの活用:リラックスした雰囲気をつくり話を聞きやすくする、感情の整理や納得を促す役割も担う
⑤アクセシブルな運営:字幕・音声読み上げ・手話対応などを用い、多くの人に参加しやすい環境を整備する
⑥振り返りの実施:対話の後に振り返りの時間を設けることで気づきや学びが定着し行動につながる

言葉の解像度を上げる対話によって、共感が増えていく。参加者の気づきをレビューする。

4.参加者の気づき
① 言語化による自己理解と感情の整理と受容:曖昧な感情や「モヤモヤ」を言葉にすることで自分自身の状態を理解し受け入れる力が生まれる
②対話による関係性の再構築:
・医療者と患者、市民同士の対話は上下関係やラベリングからの解放を促す
・患者と医療者の間に信頼関係を築き孤独や不安を軽減する
・双方向の対話は、患者の主体性を回復させ ケアの質を高める
③物語の共有による癒し:
・パーソナルな体験や物語が語られることで 他者の記憶や感情と結びつき深い共感が生まれる
・「人生の意味を探る対話」は個人の痛みや希望を言葉にする場となっている
④ユーモアと笑いの言語的役割:
・落語やキャラクター「テンボー」などを通じて 医療情報を柔らかく伝えている
・笑いは言葉の限界を補い、心の緊張をほぐし 回復への道筋をつける
・「笑い」「ユーモア」「苦笑い」などの言葉が 治療の過程で「納得」「受容」「共感」を生む
⑤認知の枠組みを変える言葉の力:
・「認知は変えられる」「自分を設定する」などの言葉が 自己の見方を変え生きやすさをもたらす
・言葉は思考の枠組み(認知フレーム)を揺さぶり回復のきっかけとなる
⑥自己肯定感を育む言葉:
・「I l ove me」など自分を肯定する言葉が 他者へのケアや社会的つながりを促進
・自己肯定感は心の回復と社会参加の基盤
⑦社会的包摂とインクルージョン:
・「ラベルをはがす」「共生」「包括」といった言葉が偏見や分類からの解放を促す
・「医は仁術」「人を診る医療」などの言葉が医療の人間性回復を象徴
・視覚障害者と健常者が自然に混ざる空間「ビジョンパーク」の包摂性
⑧ケアの主体性と市民参加:
ケアは専門家だけでなく誰もが担える行為、「話を聞く」「あいさつする」「花をいける」など日常の行動が社会を温める
医療は社会変革の手段であり共同体としての関係性を築く場にもなる
⑨医療と教育の接点:
医療者教育に共感・対話・瞑想などの人間的要素を取り入れる
子どもへのI love me」教育が自己肯定感と他者理解を育む
⑩医療者自身の回復と変容:
「無駄な力を抜く」「限界さえも伝えられる苦笑い」などの言葉が医療者のストレス軽減と人間性の回復につながっている

5.考察としてのまとめ
「人生の意味を探る」とは、他者と語り合い、笑い合い、認知を柔らかくしながら、自分らしい意味を見つけていく営みである。
「言葉」は単なる情報伝達手段ではなく、人間の尊厳・感情・認知・関係性を回復する力を持つことが対話から示された。
対話の技法は、医療とケアの境界線を融合し、発展させていくツールとなるのではないか。
今後も継続し、発信をしていくことで、多様な人の関心を高め、インクルーシブな医療と社会の実現につながっていくと考える。

以上